なぜだか唐突に思い出して、DVDを観返しました。
観返してから、10周年と聞かされて驚愕です。もうそんなに経ったの…?!
ついでに、再演当時の書き殴り感想文まで見つけたので、そいつをお供に、改めて感想を書きたいなと思います。
初演、再演共に帝劇で観まして、初演の石丸アスカム以外は、全キャスト(※再演の子役除く)観たと思います。
ちょいちょい、初演と再演(DVDと現地)の記憶がごちゃ混ぜになりますが、ご了承ください。
※“ネタバレ”というほどの衝撃展開がある物語ではないので、あまり配慮せず書きます。展開を知りたくない方はお気を付けて。
※毎度のことですが、役者さん方への批判や文句は一切ないですので、その点はご安心を。
ではまず、好きポイントから!
好き その1:メアリー1世
とにかく好き。
未来メアリーも吉沢メアリーも、どちらも好き。この作品におけるメアリーの描き方が好き。
「動」の未来メアリー。
とにかくベスを責めて、頭ごなしに「悪」と呼び続け、その快感を“歓び”とはき違えている印象。とにかくカトリックを信仰することが正義。信仰 is パワー。
「暴君」の呼び名が似合う、攻撃型メアリー。
あのド迫力ウェディングドレスに決して負けないオーラたるや。本当に根絶やしにされそう。
実際のメアリーとエリザベスが17歳差なので、平野ベスとの年齢差がちょうどぴったり。
そりゃこの年齢差で、しかも母違いで別々に育ったんなら、「姉妹」の感覚なんてないよなぁとリアルな想像ができるのも、楽しいポイント。
対する、「静」の吉沢メアリー。
こちらは、もうとにかく鉄壁の要塞。誰にも本心には入らせない。でも、頑張って隠そうとしている分、余計に「寂しい」という本心がダダ漏れで、どこか見ていて痛々しい。
道を切り拓くため、何かを変えるためではなく、ひたすら自分を護るため、自分の信念を護るために闘う。
信仰に対しても、「信じている」というより「縋っている」かのよう。
梨絵さんのロック的な歌い上げが超絶かっこいい。ハイトーン痺れる。
好き その2:フェリペ
おもしれー男。
持ち前の「陽」が漂う平方フェリペ。
喜怒哀楽を割とはっきり表に出すので、道中の楽しそうなわちゃわちゃからの、結婚式への落差が丸見えでウワァ…する。歌い始めたメアリーをおもくそ鼻で笑ってるの怖い。
勝手気ままやっているように見えて、ガッチガチに縛られている人物だけれど、ネガティブな香りもありつつ、悶々と思い悩むよりかは「ハァ、だっる〜」な雰囲気。
そしてその奥に、いつか父王をも覆すんじゃないかと、そんなエネルギーを感じさせられて、野心家的な一面も見えたように思う。
攻撃型パワータイプである未来メアリーとの、バトル相性が大変良い。
対して、絵に描いたようなポーカーフェイスの古川フェリペ。
道中の不審者感がすごい。(言い方)
さすがのダンサー出身なので、身のこなしが軽やかでキマっているんだけれど、(DVDでは消えてしまっていたけれど)いちいちジャラジャラと音がしていたのが余計おもろかった。加藤ロビンと並ぶとギリシャ彫刻。
飄々としている分、内にある閉塞感が返って滲み出るようで、「まあ君も大変だよね…」と思わされた。
その点で吉沢メアリーと近いものがあり、ともすると「同じ孤独をもつ者同士、通じ合って真実の愛に行き着くのでは…?」というトンデモ少女漫画展開を期待したくなった。(それはそれで見たい)
「試せ」の圧がめっちゃ良い。
好き その3:加藤ロビン
(※決してどっちの“方が”とかいう話ではないです。悪しからず)
加藤ロビンは、両ベスとの組み合わせで観られました。
正直、ロビンというキャラクターそのものにはちょっと思うところがある(後述)んだけれど、
「一世一代の大恋愛する青年」としては、加藤ロビンの表現は素晴らしかった。
加藤ロビンの、ベスへの気持ちの表れが、本当に素敵で。「あなたを心から愛しています」っていうのが、全身からめちゃくちゃ伝わってくる。
終盤、「俺と一緒に行こうよ!」って何度も言うんだけれど、決して強引な感じはなくて、あくまでそのベースに「ベスを想っている」がちゃんと見える。
あとシンプルに、いちいち少女漫画みたいなことしてくれて大変萌える。
特に好きなのが、手をぎゅーっと握ってからの手にキス。激甘スーパーイケメンムーブ、ありがとうございます。(現地でも見たし、DVDでもそうしているので、毎回やっていたのかな?)
ハグで後頭部に手を添えたり、後ろからハグする前に1回肩辺りに優~しく手を置いたり、ぎゅーっとほっぺをくっつけたり、何て言うか、ロマンスにおける“ポイント”をわかっていらっしゃる。幸せでした。
(客席降りのところさぁ、何でわざわざ客席降りるタイミングで、そんな前開けてんの…?閉めなよ…死人が出るよ……)
個人的には、キャラクター性の相性が良かったし、並びが絵になりすぎるので、花總ベスとの組み合わせが好き。
でも平野ベスとも、身長差がパーフェクトだし、“お転婆娘とやんちゃ坊主”感が少女漫画だった。
他作品でも思ったんだけれど、和樹さん、「人を愛する」のが上手すぎる。
あと、悲しい別れを飲み込んだ後の清々しい笑顔が、本当に清々しくて、こっちのメンタルがおかしなる。「1789」とか「フランケンシュタイン」とか。今作も。ありがとうございます。
めっちゃ善い人だって話ばっか聞くし、ご本人が人好きなのかも。ッカァ~~~顔も良くて性格も良いのかよ〜〜〜〜〜〜〜。
好き その4:舞台美術
これはもう初演から思っていたけれど、本当にすごい。
1つの作品のための美術、と言うより、もはやそれだけで1つの美術作品。
再演で初めて2階席から盆を見たんだけれど、装飾の凝り方が半端じゃない。
正直、盆にどんな絵柄があろうが、本編には関係ないし、それこそ、観客からはほとんど見えない。いっそ、真っ白でも何の問題もない。
そんな装置に対して、あの凝りよう。「“世界”を作るプロ」としての矜持を感じる。素晴らしかったです、本当に。
それは衣装も然り。
個人的にいちばん好きなのが、この、後ろの侍女たちのドレス、のスカート部分。
何と、“柄”ではなく“絵”が描かれているという。
(何の絵だかまではわからないけれど)タッチ的に、このくらいの時代の、且つ宗教画っぽい感じがしたので、バリバリのカトリック勢力の皆さんの衣装として、なるほどなぁと思った。
そのアイディアたるや。脱帽です。
因みに、このメアリーのウェディングドレス。初演時のアフタートーク曰く、たしか5,6キロあるそうです。…は??????????
さて。
上げたので、落とします。
まあ初演開幕後から、「これは…」と界隈はざわついていたので、今更自分が言及することでもないかもしれませんが。
一応大前提として、自分は今作を「駄作」とは思っていません。
「トンチキ」だと思っています。
そんな前提で、対戦よろしくお願い致します。
トンチキ その1:薄味キャラクター
クンツェ脚本のお家芸ともいえる、「架空のキャラクター投入」。今回は、ロビン・ブレイク。
が、せっかく投入されたのに、ただ一筋にロマンス要員でしかない。
トートやアマデは、エリザベートやヴォルフガングの人生を、根幹から揺さぶり続ける存在だったのに、
ロビンの与えた経験は、ただ「初恋の思い出」に留まる程度。
彼の人となりもよくわからないし、ベスのどこにそこまで強烈に惹かれたのかもわからないので、(キャラクター上のお役目であるはずの)ロマンス部分にすら、こっちの気持ちが置いていかれる。
最後にめちゃくちゃ号泣する加藤ロビンに胸が痛むのは、たぶんシンプルに“加藤和樹の涙”の威力。あんな泣くと思わんやん…。現地で観た時も、両ベス回共に爆泣きしてた。
メアリーをただの残虐な悪女にせず、司教やルナールにその任を負わせたのは良いけれど、大したことない。
とりあえず「ベスを殺しませう!」しか言わないし、一直線に抹殺する方法(ロンドン塔送り、毒殺)しか提示してこないので、“謀略”感がなく悪役としてしょーもない。
「毒殺しようと思ったら、予想外の展開で自分が飲むことに〜?え〜?アタシ、どーなっちゃうの〜?!」って、どういうギャグ???
結果、持病の心臓発作でしぬって、どういうギャグ???
キレ者チャラ王子に、王族故の息苦しさをチラつかせたのは良かったんだけれど、本当にチラッッッだけなので、で?感。
彼がベスを助けようとすること自体は、そこまで気にならないんだけれど、彼って、そんな理由でそんな独断でそんな行動をしてしまっていい立場なのか?
そもそも、最初にロンドン塔行きになったのは、おたくのご事情からでは?
(暗殺寸前のところで、義姉の政略結婚相手(しかも超イケメンで超大国の王子)が颯爽と現れて、偶然?助けてくれるって、最近流行りの悪役令嬢モノみたい)(※ちゃんと見たこともない悪役令嬢モノへのド偏見)
怪しい雰囲気だけは終始あるんだけれど、如何せん人物像が深堀りされない上、
再演で更に出番が減ったので、もうどういう人なのかサッパリわからないまま終わる。
キャラクター性の薄さに比例して、人物間の関係性も薄い。
ロビンの仲間3人組は何?誰?どれくらいの付き合いなのか、どのくらいの親密度なのかがボヤッボヤ。
なので、自分たちには何のメリットもない(むしろ命が危ない)のに、なぜあそこまでロビンに付き合ってくれるのか、不思議でならない。(その条件下で、猛暑の中、72マイル(約116キロ)を一緒に歩いてくれるって、もはや聖人の域)
ルナールとフェリペの関係値も謎。一時のお目付け役に過ぎないのか、もう何年もお世話してる間柄なのか。ルナールがフェリペをどう思っているのかがわからないので、関係性の緊張感が薄い。
むしろ、一緒に歩いていた侍従2人との絡みの方が面白かった。もっと見たかったまである。
そんで、問題のキャット。
ママポジかと思いきや、愉し役はアスカム先生とリアルママがやるので、出番なし。
「大人になるまでに」は結局、何の歌だったのかよくわからない。
かぼちゃの妖精みたいな色合いのドレスに、ふわふわくるくるヘアーの涼風さんが超可愛いだけのキャラクター。
びっくりするほど“名前だけ”だった、トマス・ワイアットもなぁ…。
じゃあ別にその名前じゃなくても、よかったのでは。
トンチキ その2:さすがに捏造
創作における、史実の脚色、変更は、あって当たり前だし、あって然るべきだと思う。“物語”にするためには、多少の“盛り”は必要。
んだけれど、さすがに今作は捏造が過ぎる。
まるで至上の名君のようなヘンリー8世と、
まるで愛に生きた聖母のようなアン・ブーリン。
さすがにない。
二次創作でもやらないレベルの荒業。
但し、「どこが名君だったのか」「如何に王に愛を捧げたか」という、具体的なエピソードは一切出ない。言ってるだけ。
まあ、だとしても「創作だから」の一言で済む話なので、捏造自体はいいとして。
いちばん問題なのは、結局アン・ブーリンはどっちだったのかがわからなかったこと。
あの聖母を、今作における“アン・ブーリン像”にしたいのなら、
「淫売」だの「娼婦」だの、「『ベスのがいい』だぁ?!アン・ブーリンの娘やぞ!」という発言だのがあまりにもノイズ。アスカム先生でさえ、世の中のアン・ブーリン像を否定しない。
「本当はそうじゃない」と言うのがアン・ブーリン本人(※ベスにしか見えない幽霊)なので、何の証明にもならない。物証もない。
別人の話してるのかと思うレベルで、実際の姿と証言が嚙み合っていないので、観客に彼女を「どちらとして見てほしいのか」がわからない。
そんな中で突然、「濡れ衣だったのね~」とか言い出すモンだから、何がどうわかってベスの誤解が晴れたのかも全くの謎。
「笑顔で処刑された」ってソースどこ…?
トンチキ その3:再演で変わったこと
再演から、冒頭に幼少期の子役が加わったわけだけれど、これがまぁほとんど意味がない。
そこでしか出てこないから。
どうして「愛のためすべて」とか「愛を知らずに」で出さなかったのか、不思議でならない。
で、再演といえば、ラスト付近に新曲がいくつか入ったのが1つの目玉でしたけれども。
これがまあ、どれもウーン…って感じ。
「傷ついた翼」は、まずベスの翼は、
「傷ついている」
という表現で本当に合っているのだろうか。
この表現が、結局、彼女が戴冠に対してものすごく後ろ向きで、最後の最後まで全然覚悟が決まっていないことを後押ししてしまっているように感じる。
ベスの翼は「傷ついている」のではなく、
「飛ぶためではなく、人々を覆い、護るためにある」
という表現が適切だと思うのですが、いかがでしょう。
「闇を恐れず」「獅子の心」は、シンプルに蛇足だと感じた。
特に前者。初演版での、息が止まるくらいの張り詰めた無音の数分がとても良かっただけに、情緒がなくて残念だった。ベスからロビンへの、ノールックイモーテル(言い方)も好きだったのになぁ。
初演版から、曲が短くなったり、シーンが減ったりしたのは、おそらく新曲の尺のためもあるでしょう。
おかげで、ただでさえ描写不足な人物関係、感情の応酬が、スピードアップした物語のせいで、更に描写不足になって、それぞれのキャラクターが更に見えなくなってしまった。
トンチキ その4:主人公何もしない
最大の問題点がこれだと思う。
本当に何もしない。
基本的に状況に飲まれていくだけ。
まあ言いたいことはいろいろあるんだけれど、キリがないので、まとめると、
主人公の人選ミス。
仕方ないんだけどね。
この時代の女性って、どうしても“駒”でしかないので、自らドラマを作る役割をさせるには難しい。だからこそ、史実上の男性を「実は女性だった」にする手法が生まれるわけで。
だとしても、自ら動くことはできなくても、荒波は周りにどんちゃか作っていただいて、その中で「心の成長」をしていく物語なら、作れるとは思うんだけれど、
ベスがそもそも、よくできた良い子ちゃんなもんだから、王女から女王への落差があまりなくて、やっぱり“ドラマ”がなかったなぁという印象。
と言うか、いつものクンツェ脚本のテイストなら、
メアリー1世の生涯の方が、よっぽど面白いものができたのでは?と思う、今日この頃。
あ、1つだけ言わせてほしい。
ベスさ、そんなに身を切るほどの思いで別れるような恋人に、「貴方が好きです」を一度も言わないのはどうかと思うで。
初演版「月明かりの君」より
ロビン「俺が君を想うくらい 俺のこと好きかい?」
ベス「貴方となら地の果てまでも 旅して行ける」
YesかNoで答えろ!!!!今そういうのいいんだよ!!!!!!!!
他にも、
「英国」「イングランド」「イギリス」を混ぜるな。五億歩譲っても、同じ曲中で混ぜるな。
とか、
「俺は流れ者」と「クールヘッド」はマジで日本語詞考え直せ。
とか、
イングランド国教会ってどこ行った?しんだ?
とか、
言いたいことは山ほどあるのですが、マジで長くなるので止めておきます。
嫌いなわけではないし。何だかんだ、CDもDVDもリピートしてるしね。
「マリー・アントワネット」のように、大幅にブラッシュアップされて帰ってくることを願います。
あの装置と衣装がお蔵入りになるのは、どう考えても勿体ないので。